レジリエンス 〜逆境に打ち勝つ力〜

ある心理学者によると、ほとんどの人が人生において少なくとも一度は心に大きな傷(トラウマ)を負う出来事を経験すると言われています(Mancini, 2008)。

というように、現代社会において、非常にストレスフルな経験をすることは決して珍しいことではありません。むしろ、ストレスフルな状況(特に今)にうまく適応できず、苦労されている人も多いのではないでしょうか?

そこで現代のストレス社会において、注目されているのがレジリエンス(Resilience)という「心の適応能力」です。

この心の適応能力が高い人は、心を良好な状態にに保ち、高いパフォーマンを継続的に発揮します。また、非常にネガティブな経験をしたとしても、そこから心を良好な状態に回復させ、再び高いパフォーマンスを発揮します。

私たちは必ず、日常的に様々なストレスを感じており、様々な方法でストレスに反応(対処:コーピング)しています。ストレスの反応にはポジティブ(適切)なものとネガティブ(不適切)なものがあります。簡単に言うと、ポジティブなストレスへの反応は運動をするとか、目標を立てる、人と話すなどですが、ネガティブなストレスへの反応は薬物の使用(酒、タバコ、睡眠薬または危険ドラッグなど)、他者への八つ当たり、一人でふさぎ込むなどです。

このようなストレス反応へのメカニズは、以下のプロセスで人はストレスを処理していると考えられています(Fletcher & Fletcher, 2005など)。

①ストレス (ネガティブな出来事など)
↓↓↓
②認知(ストレスをどう認識するか)
↓↓↓
③ストレスに対する反応(ポジティブ or ネガティブなストレスの対処)

レジリエンス心の適応能力なので、このストレス処理のプロセスに大きな影響を与え、ストレスに対する反応をポシティブなものとするかネガティブなものとするかを決定づける非常に重要な心の要素となります。

つまり、ネガティブ(ストレスの高い)な出来事が起きたときに、自分自身の心の状態とパフォーマンス(仕事、スポーツ、学業など)を良好な状態に保つ、または、良好な状態に回復させることができるかどうかは、心の適応能力(レジリエンス)に大きく左右されるというわけです。

では、どうすれば、この心の適応能力(レジリエンス)を高めることができるのでしょうか?

イギリスのラフバラ大学が2016年に発表した論文(Fletcher & Sarkar, 2016)によると、3つのポイントが挙げられています。

1.人としての質を高めるトレーニングをすること(メンタルトレーニング、ライフスキルトレーニングなど)

2.環境要因を整えること

3.適切な心構え、考え方を身につけること

ここでは、人の上に立つ人へのメッセージとして、2.環境要因を整えることについて少し触れたいと思います。

古代ギリシャの哲学者、アリストテレスが人間は社会的動物だと言ったように、私たちにとって社会や社会を形成する環境的要因は無視することはできません

ここで言う環境要因を整えるというのはサポート体制を整えるということです。特に、リーダー(指導者、教員、親、会社の役員など)は、選手、生徒、子ども、部下のためにも、このサポート体制を整えるということを強く意識しなくてはなりません。

また、誰かをサポートするときに大切なことは、課題の難しさに対して、適度な度合いのサポートを提供するということです。簡単な課題に対しての過保護なサポート、または難しい課題に対しての放任的なサポートは、同様にパフォーマンスの低下を招きます(Sanford, 1967)。

では、どのようなサポート体制を整えればよいか?
一言でいうと、選手、生徒、子ども、部下が人としての質を高めることができる環境を用意してあげるということです。

以下に、人としての質を高めるためのサポート体制を作るポイントをいくつか簡単紹介しておきます。

1.挑戦的な目標設定の支援とその目標へのチャレンジのサポート
→簡単すぎず、難しすぎない目標の提示または設定の促進と、その課題の遂行を適度に支援する。人は、挑戦的で手厚い支援のある環境において、より成長していきます。このときに、目標設定または目標の修正を、サポートの対象者が自主的に行える工夫をしましょう。

2.個人が成長の機会を求めることを否定しない
→長い目で見て、サポートの対象者がより成長する、より伸びしろのある選択をすることを手助けする。

3.根拠のある計画的なアドバイスをする
→個人的な経験だけに頼らず、エビデンス(根拠→データなど)のあるアドバイスやフィードバック、段階的な学習過程の提示をすること。

4.支援の対象者と良好な関係を築く
→互いが信頼し合える人間関係の構築をすること。リーダーは、言葉の使い方や見た目に気を使い(高圧的、マフィア風になっていないか?)、寛大さを持つこと。

5.心理的に安全な環境を作る
→リスクを取ることができる環境、雰囲気を作ること。組織内の競争をより健全なものにする努力をすること。

6.全員がひとりひとりをサポートする気持ちを育む
→「One for all, all for one:ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」といった自己中心的でない組織、チームづくり。

7.失敗を歓迎し、ミスから学ぶ
→失敗は許されないという雰囲気を作って、不安で動機づけるのではなく、失敗から学ぶ、失敗はポジティブなことという認識づくり。

8.ひとりひとりの成功を認めてあげて、それをお祝いする
→ひとりひとりの課題の達成を一緒に喜んであげる、または喜んでくれるような環境づくり。ある人には簡単ですでに達成している課題でも、ある人には挑戦的な課題である。

9.「みんなで戦っている」という意識を持つ
→どんな困難な状況でも、みんなで戦っている(ひとりじゃない)という気持ちを全員が持てるようにする。

少し多くなってしまいましたが、以上のポイント考慮し、環境づくりをする、または自分が所属する環境を選択することがレジリエンスを高めるために大切なことになります。

3つ目の適切な心構え、考え方を身につけるについては深く触れませんが、シェイクスピアは彼の名作「ハムレット」の中でこのような言葉を残しています。“良いものも悪いものも存在しない、心がそうさせるのである” と…
つまり、ポジティブな出来事もネガティブティブな出来事もすべて人の心が決めているのだと彼は言っています。

様々な解釈、意見等あるとは思いますが、いま自分が見ている世界というのは、自分の思考が作り上げている幻想に過ぎないのかもしれませんね。また、マインドセットについてはどこかで取り上げた記事を書きたいと思います。

最後に、

多くの物語において最初っから一番の主人公なんていません。多くの主人公は沢山失敗をして、そこから学び、仲間の助けを得て強くなっていきます。彼らは困難な状況を経験し、そこから飛躍していくからこそ面白いやけですが、今回紹介した心の適応能力(レジリエンス)というのは、私たちひとりひとりが自分の人生の主人公として、より幸せに生きていくために大切な心の要素のひとつなのかもしれません。

長くなりましたが、ここに書いたことが、読んでくださった皆様の人生に少しでも役に立つことを願っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
気軽にコメントまたは、Contact欄より連絡などで意見、質問、感想などいただけますと幸いです。
Twitter: @keitasimplejoys

Simple Joys,
Keita Kinoshita

引用文献:
Fletcher, D., & Fletcher, J. (2005). A meta-model of stress, emotions and performance: Conceptual foundations, theoretical framework, and research directions. Journal of Sports Sciences, 23,157–158.

Fletcher, D., & Sarkar, M. (2016). Mental fortitude training: An evidence-based approach to developing psychological resilience for sustained success. Journal of Sport Psychology in Action7(3), 135-157.

Mancini, A. D., & Bonanno, G. A. (2009). Predictors and parameters of resilience to loss: Toward an individual differences model. Journal of Personality, 77, 1805–1832. doi: 10.1111/j.1467-6494.2009.00601.x

Sanford, N. (1967). Where colleges fail: A study of the student as a person. San Francisco, CA: Jossey-Bass.


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